企業内技術士の勧め

このたび、このホームページを従来のサーバーから別のサーバーへと移管した。そのついでに、サイトをSSL対応に変更したので、URLが http://~ から https://~ に変更になった。

引越し作業の際に、以前書いて、そのまま公開し忘れていた原稿を発見。引越し作業がうまくできたのかのテストを兼ねて、この古い文章を公開することにした。考えてみると、「企業内技術士」という用語は決して一般的に広まっている用語ではないし、この文章も改めて読んでみると、独りよがりのところも感じられるが、誰かの役に立つこともあるかもしれない。なお、以下の文章は、2007年に書いたもので、その当時のまま(リンク切れのみ修正)掲載するので、現状とは必ずしも合わない部分があるが、ご容赦願いたい。

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私の場合、企業を退職→コンサルタント業を開始→技術士試験を受験→技術士資格取得→技術士事務所開設、という順番でここまで来たのだですが、これはどうやらかなり特異なケースのようです。通常コンサルタントとして独立する場合、企業を定年退職→技術士資格取得→技術士事務所開設→コンサルタント業を開始という順番か、技術士資格取得→企業内で通常の勤務→退職→技術士事務所開設→コンサルタント業開始、という順番が多いようです。

しかし、英語名称が Consulting Engineer から Professional Engineer に変更になったことからも明らかなように、決して技術士は独立コンサルタントのためだけの資格ではないし、実は資格保有者のうちで企業に勤務している割合は意外と多いようです。(社)日本技術士会の技術士制度についてによると、技術士全体の84%がコンサルタント会社を含む一般企業等に勤務しており、技術コンサルタントとして自営しているのはわずか7%に過ぎないようです。また、(社)日本技術士会の「事業概要」というパンフレットに掲載されているグラフによると、一般企業勤務の技術士とコンサルティング会社勤務の技術士の人数はほぼ同等数のようですから、一般企業勤務の技術士は全体の40%程度、2万人強と考えられます。

さて、企業内技術士にどんな役割が期待されているのかについては、技術士ビジョン21および、「技術士ビジョン21」職域別技術士の位置づけ 行動指針を見ていただくとして、ここでは、私自身が技術士資格を取得することで得られたものをベースに、現在企業内で技術者として働いている方々に対して、技術士資格取得の勧めをしてみたいと思います。

そもそも、建設部門などの一部(というか、これが技術士の大半を占めているのだが)を除くと、技術士資格は本業の仕事に直接影響するようなメリットはないのが実情です。私の場合には独立コンサルタントを仕事にしていますから、技術士資格自体に看板というか、一種のブランドとしての価値があると言えるわけです。しかし、もしも自分が今も会社員であったとしても、やっぱり技術士資格はチャレンジする価値のあるものだと思います。ここでは、会社員として働く個人にとっての技術士資格の価値を、資格そのものの価値、資格取得までのプロセスの価値、および資格取得後に得られる価値に分けて考えて見ます。

資格そのものが直接もたらす価値は、正直それほど大したものはないと思います。せいぜい、名刺などに「技術士」と記入することで、相手の見る目が多少変わってくるということがある程度でしょうか。技術士の知名度が低すぎて、その効果があまり得られないというのが実態でしょうが、初対面の際の話題作りの役ぐらいには立ちそうです。実は私自身、会社員時代には技術士の資格のことはあまり知りませんでしたし、後から振り返ってみると、以前お会いした人の中にも企業内技術士の方が何人かいらっしゃったのに、当時は全くそれに気付かずにお相手していたこともあるようです。

海外の場合には、日本の Professional Engineer という資格をどの程度認識してくれるか疑問ですが、日本版の PE だと説明すると、アメリカ人などは何となく納得してくれるようです。APEC Engineer 資格を取ると少しはましかも知れませんが、この資格もまた、まだまだアメリカなどでの知名度はかなり低いと思われます。それでも博士号を持っていない場合には、単なる “Mr.” ではなく、”PE” として対応してもらえる可能性があります。

私自身の体験からは、資格取得までのプロセスで得られるものがとても多かったと思っています。それは、技術士資格が他の技術系の資格と全く異なるものを要求する資格であることと関係していそうです。私の場合、会社員時代に会社のお金で、危険物取扱者、高圧ガス製造保安責任者、公害防止管理者、衛生管理者などの資格を取得させていただきました。いずれも(建前上は)業務遂行上に必要だ、という位置付けではあったのですが、かなり実務的であり、いずれにしても要求されるのは、科学的な知識や法律的な知識です。ここで必要な知識は、本来の仕事とは直接関係するものではなく、むしろ基礎知識や周辺知識になりますから、自分の知識の幅を広げるという点で意味があるのは確かですが、資格取得のプロセスも試験合格のための暗記が中心となってしまいます。

それに対して、技術士資格は、正に自分の本業である技術者としての知識や見識を問われるわけで、資格取得までに必要な勉強も、自分の今までの経験を振り返って整理したり、専門分野の知識を改めて振り返ったり、ということで自分の本業にそのまま役立つことばかりです。

技術士第一次試験では、専門科目以外に、科学一般の広く浅い知識を要求される基礎科目や、技術者倫理を問われる適性科目もありますが、これは企業内で何年も日々の仕事に没頭している技術者にとって、とても有意義な試験だと思います。基礎科目が要求する範囲やレベルは、いわば技術者にとって知っていて欲しい常識問題と言えるものの、毎日の仕事で直接必要となるわけではない知識です。でも、このような知識をバックグラウンドとして知っていることは、技術者としての幅と厚みを広げることになるし、きっと本業にも役立ってくれると思います。

また、適性科目で問われる技術者倫理は、これまた常識的な内容やレベルですけれど、企業内で仕事をしていると、なかなかゆっくりと立ち止まって考えることのなかった問題であると思います。最近は、企業倫理や研究者倫理が問題となることが多く、企業でもコンプライアンスや倫理の重要性が強調される機会も多くなっていると思います。しかし、適性科目で問われる技術者倫理は、あくまでも公共の利益を第一に考える倫理概念であり、必ずしも企業の論理や倫理と一致するとは限らないものです。試験では、あくまでも技術士試験が求める優等生的な回答をしなくてはなりませんが、企業の論理が全てではないということを考える機会として捉えることもできるわけで、いずれにしても適性試験はそれなりに意味のあるものだと思います。

2007/3/31

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