1.技術士とは
技術士とは、技術士法において
第二条 この法律において「技術士」とは、第三十二条第一項の登録を受け、技術士の名称を用いて、科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ。)に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務(他の法律においてその業務を行うことが制限されている業務を除く。)を行う者をいう。
と規定されており、国家試験に合格し、登録した人だけが使用できる名称です。英文名称は、以前は Consulting Engineer だったのですが、現在はより広い分野で活躍するプロフェッショナルなエンジニアという意味で Professional Engineer (略称 P.E.Jp)となっています。
技術士はいわゆる「名称独占資格」(登録資格:register)であり、この資格を持たないものが「技術士」を名乗ることは法律で禁止されています。弁護士、弁理士、税理士あるいは医師などのような「業務独占資格」(免許:license)とは異なり、技術士でなくてはできない仕事というのは、特定の分野の業務を除いて、原則としてありません。
また、技術士第二次試験を受験するためには所定年数の業務経験が必要な点、すなわち知識だけではなく経験が要求される点も、他の国家資格とは異なる特徴といえます。
これらに加えて、技術士法には技術士を理解する上で外すわけにはいかない重要なことが書かれています。それは、技術士は公益確保や資質向上などの義務または責務を負っているということです。従って、技術士のあるべき姿とは、専門分野に関する高度な知識や経験に加え、技術者倫理にも精通し、社会的な使命および責任を自覚した、社会から信頼される技術者であるといえます。
公益社団法人日本技術士会の説明はQ&Aも掲載されており一通り目を通す価値はあるのですが、やや言葉不足で説明不足の感は否めません。公益社団法人日本技術士会としても、技術士のことをもっと多くの人に理解してもらいたいと考えており、数年前になりますが、主として子供向けに「技術士って?」というイラスト入りのパンフレットを作成しました。これはこれで、一般の方に技術士のことを説明する助けにはなりそうです。
2.技術部門と登録者数
技術士資格には、以下に示す全部で21の技術部門があります。技術士試験もこれに対応した部門別になっており、技術士になるためにはまず技術部門、およびその中から自分の専門の選択科目を選び、その部門・選択科目の第二次試験に合格したのち、登録する必要があります。総合技術監理部門を除く20部門の選択科目数を合計すると107科目もあります。ちなみに、これら各部門および専門科目の英語表記についてはこちらにあります。
- 機械部門
- 船舶・海洋部門
- 航空・宇宙部門
- 電気電子部門
- 化学部門
- 繊維部門
- 金属部門
- 資源工学部門
- 建設部門
- 上下水道部門
- 衛生工学部門
- 農業部門
- 森林部門
- 水産部門
- 経営工学部門
- 情報工学部門
- 応用理学部門
- 生物工学部門
- 環境部門
- 原子力・放射線部門
- 総合技術監理部門
技術士法第46条により、技術士が業務に関して技術士の名称を表示するときには、登録を受けた技術部門を明示する必要があります。技術士は、その専門分野に関する能力が認定されたものであり、その権威の及ぶ範囲はあくまでも登録を受けた分野だけということです。
2024年(令和6年)3月末現在の技術士の登録者数は、延べ人数で122,953人、実数で100,790人となっており、その部門別の内訳は図のようになっています。(出典:公益社団法人日本技術士会 事業報告書)
図からも明らかなように、建設部門の登録者数(55,859人)が圧倒的に多い(約45%)という特徴があります。ちなみに私が登録している化学部門の登録者数は1,764人で全体の約1.4%です。
なお、総合技術監理部門は他の20部門とは位置付けが異なり(受験資格や試験方法も異なります)、この部門を取得している技術士の多くは、先に他の技術部門の技術士資格を取得したのちに、総合技術監理部門を取得しているため、ほとんどの方は総合技術監理部門以外の部門と総合技術監理部門の両方の技術士となっています。
3.技術士への道
現在、技術士になるためのルートは以下の図に示す3通りです。総合技術監理部門以外の20部門の場合、従来からある技術士補登録+実務経験4年以上というルート(経路1)、および1次試験合格+実務経験7年以上というルート(経路3)に加え、1次試験合格(またはJABEE認定コース修了)+優れた指導者の監督の下での実務経験4年以上という3番目のルート(経路2)があります。
なお、経路2の場合には、4年間の必要実務経験期間の中に大学院での研究期間を最長2年間算入することができますから、最短で大学院修士課程修了2年後には技術士第二次試験の受験資格ができることになります。計算上は、大学院修了生の場合には最短で26歳、JABEE認定の高専修了生の場合には最短で24歳での技術士資格取得も可能となるわけですが、実際には最年少の技術士第二次試験合格者は26歳(受験時25歳)のようです(参考 )。
図 技術士へのルート
4.技術士試験制度
試験制度は過去に何度も変更になっています。詳細は技術士試験における変更点をご覧ください。
最近では下の表に示すように、平成19年(2007年)度、平成25年(2013年)度、および平成31年(令和元年(2019年))度と、6年毎に技術士第二次試験の試験内容が変更になっています。基本的には、以前は経験を重視していたのに対し、最近は、若くて経験が少なくても、きちんとした教育と訓練を受けて、論理的考察力、課題解決能力および応用能力を身に付けた人が合格しやすくなったのではないでしょうか。
表 技術士第二次試験の内容
平成13~18年度 (2001~2006) | 平成19~24年度 (2007~2012) | 平成25~30年度 (2013~2018) | 平成31年度~ (2019~ ) |
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必須科目 | 択一式 20問中15問 | 択一式 なし | 択一式 20問中15問 | 択一式 なし |
記述式 600字×3枚 | 記述式 600字×3枚 | 記述式 なし | 記述式 600字×3枚 |
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選択科目 | 記述式 600字×6枚 | 記述式 600字×6枚 | 記述式 専門・応用 600字×4枚 課題解決 600字×3枚 | 記述式 専門・応用 600字×3枚 課題解決 600字×3枚 |
経験論文 | 記述式 600字×6枚 | 筆記合格者のみ 口頭試験前提出 3000字以内 | 受験申込時 業務経歴詳細 720字以内 | 受験申込時 業務経歴詳細 720字以内 |
試験時間 | 合計7時間 | 合計6時間 | 合計5時間30分 | 合計5時間30分 |
口頭試験 | 約30分間 | 約45分間 | 約20分間 | 約20分間 |
平成25年度の変更点は次の通りです。第一次試験では共通科目が廃止となり、基礎科目は5分野各5問計25問からの各3問計15問選択だったのが、5分野各6問計30問からの各3問計15問選択に変更となりました。第二次試験は、必須科目の記述問題がなくなり、代わりに五肢択一問題が復活しました。また、選択科目の記述問題が増強され、時間と記述枚数が増えています。さらに、従来は筆記試験合格者が口頭試験前に技術的体験論文を提出していましたが、これが廃止となり、代わりに受験申込時に提出する業務経歴票に「業務内容の詳細」を720字以内で記載することになりました。
平成31年(令和元年)度の第二次試験では、必須科目の択一式がなくなり、記述式に戻りました。何を意図した変更なのか明確ではありませんが、結果的には制度が行ったり来たりしている印象が免れないように思います。さらに、選択科目の中身を見ると、選択科目のうち、専門知識に関する問題が、4問出題1問選択解答、600字×1枚記述となっています。従来は、4問出題2問選択解答、600字×2枚記述でした。全体的には、専門知識のウェイトが小さくなり、応用能力や課題解決能力の比率が増大した印象ですが、ストレートに専門知識を問う問題がたった1問だけ、というのはちょっと少なすぎと思いますが、どうでしょう?
それと関係ありそうですが、今回の第二次試験では、「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」として、次の8項目を挙げ、試験ではその全項目について、受験生がこれらのコンピテンシーを備えているかどうかを何らかの形で問うものとなっているようです。
- 専門的学識
- 問題解決
- マネジメント
- 評価
- コミュニケーション
- リーダーシップ
- 技術者倫理
- 継続研さん
筆記試験と口頭試験でこれら全項目について適正に評価できるのかどうかはともかくとして、これらの8項目が技術士に求められる資質能力であるというのはどういうことでしょうか? 実は私も知らなかったのですが、技術士CPDガイドライン Ver1.2 に記載があります。それによると、「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」は、文部科学省の科学技術・学術審議会 技術士分科会にて平成26年3月に制定され、その後令和5年1月に改訂されています。
これから技術士になる方たちにこれらの資質能力を要求する一方で、既技術士は果たして、これらの資質能力を備えているのでしょうか? 少なくとも過去の技術士試験では、これらを明示的に評価していないのは確かです。何だか、不思議な感じです。確かに、これら8項目の資質能力を備えている方は技術士にふさわしいとは思いますが、逆もまた真なのでしょうか? 例えば、マネジメントやコミュニケーション能力、あるいはリーダーシップを備えていないけれど、技術士として活躍している人もいるのではないでしょうか?(というか、現在の技術士で、これらの能力を全て兼ね備えている人がどれだけいるのでしょうか??)
ところで、過去の試験問題(と択一問題の正答)については、公益社団法人日本技術士会が公開しています。従来、マイナーな部門の試験問題はなかなか入手するのが困難でしたから、これはとても良い施策だと思います。(一部の出版社にとっては痛手かもしれませんが。)
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